smac×smac

映画&ドラマ&音楽&本

Queen+Adam Lambert/The Rhapsody Tour レヴュー

2018年公開『ボヘミアン・ラプソディ』に続く形で行われた、

クイーン+アダム・ランバートの「ラプソディ・ツアー」。

 

久しぶりの日本公演ということもあり、

大きな話題になったこのコンサート・ツアー。

鑑賞して感じたことをまとめていきたい。

 

  •  舞台版『イニュエンドウ』

物販で販売されたプログラムに記載されている通り、

今回のライヴはオペラを意識した舞台構成がなされている。

 

クイーンでオペラといえば「ボヘミアン・ラプソディ」が収録された

スタジオアルバム、『オペラ座の夜』が想起される。

 

しかし、あえて同アルバムを踏襲するのではなく、

むしろ『イニュエンドウ』(1991年発表、フレディ・マーキュリー生前最後のスタジオ・アルバム)からの影響を強く感じた。

 

収録曲から演奏されたのは”The Show Must Go on”1曲だけだったが、

イントロダクションでアルバム同名曲"Innuendo"の新録版が流され、

セットリストもクイーンの歴史をなぞりつつ、

新しい音楽性を強く意識させるものだった。

 

同アルバムがデビュー当時の音楽性への回帰を特徴としていることを鑑みれば、

今回のライヴも、クイーンのかつての姿への回帰を目標としていることは確かだろう。

舞台のセットも、劇所から70年代後半のライブの再現へと移り変わり、

最後には現代的な意匠へ組み替えられていく。

そして、曲の合間に流される映像も、

”Innuendo”のPVをアップデートさせたものである。

 

叶うことのなかった「イニュエンドウ・ツアー」がもし行われていれば、

こんなコンサートになっていたのではないだろうか。

 

まさしく、バンドの中に刻まれた歴史を舞台上で再現しているようだ。

その歴史の中には、『ボヘミアン・ラプソディ』、

木村拓哉主演ドラマ『プライド』をきっかけに、

日本でクイーンが何度も社会現象になった事実も含まれている。

 

『プライド』主題歌で、海外では演奏されていない”I Was Born to Love You”、

映画で使用された”Doing All Right”が演奏されたことがその証左であろう。

 

そして、『イニュエンドウ』がフレディの生前最後に発表された事実も合わせれば、

ブライアン・メイロジャー・テイラーが年齢・体力的に、

これが最後の世界ツアーになるかもしれないことを自覚しているようにも感じた。

 

  • 2020年のクイーン

しかし、単なる懐古趣味で終わっているわけではないことも事実だ。

 

アダム・ランバートという超人的な声量を持った人物を

フロントマンに据えることで、フレディとはまた異なった、

エッジの効いたパフォーマンスが行われていた。

 

そして、映画をきっかけにバンドを知った新規ファンのために、

冒頭では劇中使用曲が中心に演奏されることで、

無理なくクイーンの世界に浸れる配慮が行き届いている。

 

曲順も"I'm in Love with My Car"の次に”Bicycle Race” Race”が来たりと、

名曲を使って遊んで見せるだけの余裕も見せつける。

(さらに、歌っているアダムがバイクに乗っているという皮肉…!)

 

また、2時間のライブをテンポよく進めるために、

以前のライブであればフルコーラスで演奏していたものを途中でカットしたりと、

伝統に縛られすぎない構成も好感が持てた。

 

  • アダムがあの曲を

クイーンを現在進行形のバンドにし続けるというメンバーの気概は、

Bohemian Rhapsody”の演奏に最も表れていた。

 

かつてポール・ロジャースと組んでいた時や、少し前までのコンサートなら、

この曲のバラード部分はフレディの生前の映像を流していた。

 

だが、今回は基本的にアダムがヴォーカルをとっている。

それは、”Bohemian Rhapsody”=フレディ、と言う暗黙の了解を破り、

アダムにこの曲を託せるようになったのだろう。

 

 フレディを超えることや真似をすることは不可能である。

しかし、曲やバンドの本質を捉え、それを自分で表現できる

稀有な才能をもったアダムこそ、今のクイーンのフロントマンが務まるのだと強く感じた。

 

  • フレディへのトリビュート

そして、筆者が最も感動したのは、”Love of My Life”だ。

事前にこれまでのライヴツアーの映像を見ていたので、

どういう展開になるのかは知っていたが、この曲でフレディが登場した時、形容できない感情を抱いた。

 

それは。フレディ・マーキュリーは確かに存在したということだ。

そして、彼が生きた伝説の証は、ブライアンとロジャーという生涯の友人を通して紡がれている。

その事実に思い至り、深く感銘を受けた。

 

映像や録音でしか触れることのなかったフレディ・マーキュリーやクイーンが、

リアルな存在として身近に感じることが出来たのである。

まさしく、”It was all worth it.”なライヴであった。

 

  • まとめ

2時間のライヴはあっという間に終わってしまった。

そして、あの空間は現実だったのか、今でも戸惑っている。

ライヴが終わりステージの解体作業が始まっても、しばらく放心状態であった。

 

伝説のバンドという肩書に甘んじることなく進化を続け、

ファンに寄り添い続けてくれるQueen+Adam Lambert

その旅はこれからも続いていくだろう。

 

彼らの活躍を見続けられることを、心から嬉しく思う。