2019年映画振り返り
年明けから『ナイヴズ・アウト』『フォードvsフェラーリ』など話題作が目白押しの2020年だが、
新年の映画を鑑賞する前に一度2019年の映画のレヴューを簡単に記したい。
今回は公開作品の中でも特に印象に残った作品について言及する。
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『アベンジャーズ/エンドゲーム』
2019年の一大イベントいえばこの映画だろう。
2008年から続くマーベル映画シリーズの総決算として、あらゆる伏線を回収しつつ、
時間を巻き戻して新しいものを見せるという離れ業をやってのけた本作は間違いなくベスト映画だ。
3時間という上映時間が短く感じられるほど整頓されたプロット、
前作『インフィニティ・ウォー』のシリアス路線から一転した、肩の力を抜いたような描写の数々に本シリーズの良さが詰まっているようだ。
筆者は、ダイナーで気まずい昼食をとるハルクとスコットの掛け合い
(スコットの"I'm confused." に対するハルクの"I know this is a confusing time."というセリフには笑ってしまった)、
エレベーターの場面(観た人ならわかるはず…!)の場面が特に気に入っている。
シリーズと役者の魅力を存分に発揮しつつ、初見の観客に対する説明がさりげなく盛り込まれた展開も好印象だ。
ただ、『エージェント・オブ・シールド』ファンの筆者としては、コールソン捜査官が見れなかったのは少し寂しかった(『キャプテン・マーベル』に出演していたので仕方ないけど)。
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『凪待ち』
ざっくり言うと日本版『マンチェスター・バイ・ザ・シー』。
喪失とトラウマから暴力とギャンブルに走る主人公・郁男の姿を、全身で演じ切る香取の演技力に圧倒された。
オープニングで映る背中、ギャンブルに興じる際の視線に、「知ってる香取慎吾じゃない…」と思うこと必至だ。
また、個人の話を集中的に描きつつも、要所で出てくる震災への言及が説得力を持たせている。
郁男がラストシーンでぼそりと放つ一言に、この映画の訴えが集約されていると感じた。
そして、このセリフをSMAP解散を経た香取が発しているという事実も忘れてはならない。
2019年7月に報道された「圧力」によって満足なプロモーションができなかったと思われるのが本当に残念。
お時間のある時に、ぜひじっくり見てほしい。
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『スパイダーマン/ファー・フロム・ホーム』
『エンドゲーム』から約2か月という驚異的な速さで公開されたマーベル最新作。
一言で感想を言えば、「面白いを超えて怖い」映画だった。
大きくなっていくシリーズに対する自己言及的ツイスト、
1作目から続いて描かれる「どす黒い大人の世界」、
そして、我々鑑賞者に対する強烈な一言。
それらを描いたさきに提示されるのは、正義よりも「バズること」が優先されるポスト真実の世界だ。
フィクションの中に今日的話題を織り交ぜる器用さと真摯さこそ、本シリーズの醍醐味といえる。
ミッドクレジットに登場する懐かしい顔の登場もうれしかった。
今後のマーベルシリーズがどうなるのか予想もつかない。
今年公開の『ブラック・ウィドウ』と『エターナルズ』、
配信予定の『ファルコン&ウィンターソルジャー』と『ワンダヴィジョン』が描くマーベルの「新しい地図」が本当に楽しみ。
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『トイ・ストーリー4』
どちらかというと『ウッディ・ストーリー』という方が正しいくらい、ウッディの話だ。
1作目から通してみると、本シリーズは成長していく映画だということがわかる。
当初のっぺりとしていたCGは流麗な映像へと変わり、
一流選手的ポジションだった主人公ウッディも、今は監督・コーチ的な役割として、新キャラを活躍させる立場になっている。
「自分にはもうこれしかない」というセリフに、彼の老いと成熟が同時に表れている。
老いを抱えた彼と対照的に、フォーキーという若さを持ったおもちゃが登場している。
フォーキーの問いに答えながら往時を回想するウッディの姿は本作のハイライトだと感じた。
そして、全編を通して彼が問われる「選択」も本作のテーマだ。
おもちゃとしての役割を全うするか、外に出て自由な存在として生きていくか。
再登場したボー・ピープの存在により、これまでの物語があくまでも「おもちゃとしての延命行為」に過ぎなかったことが示される。
エンディングの「あの名台詞」が、ウッディとバズの前途が可能性に満ちていることを強調している(その中には破滅も含まれていることも確かだ)。
ウッディは新たな役割を手に入れるわけだが、それは他のおもちゃを、彼自身が経験してきた煉獄に送り出すことも意味する。
とすると、彼の行為は果たして自由をもたらしたといえるのだろうか。
賛否を呼んだ本作だが、筆者は明確な立場を出せないでいる。
しかし、本作をみてイマイチだったという方は、5年後くらいにもう一度見れば見方が変わるということは自信を持って言える。
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『ロケットマン』
とかく『ボヘミアン・ラプソディ』と比較される本作だが(作り手は同じデクスター・フレッチャーで、登場人物も一人かぶっている)、内容は正反対の作りだ。
エルトン・ジョンの楽曲に合わせて描かれる美しい映像と、それを歌う役者の歌唱力はミュージカル映画の中でもずば抜けていたのではないだろうか。
まさか、エルトンが文字通りロケットで飛んでいく姿を見せられるとは。
彼の人生を辿りながら、その光と影の部分を均等に映し出したことで、彼の人間臭さが浮き彫りになっていた。
ほかの登場人物もキャラが立っており、良質なアンサンブル映画だと感じた。
紆余曲折を経て最後に提示されるのは回復への希望(その点では『凪待ち』とも通じる)。映画をみた帰りに寄ったスーパーでYour Songがかかっていたのも相まって、強く印象に残る映画だった。
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『台風家族』
市井昌秀監督、草彅剛主演。
2019年公開の中で一番楽しい映画だった。
草彅演じる小鉄のボンクラぶり、訳ありすぎる鈴木家の面々に劇場でも終始笑いが起きていた。また、今回新人として出演した甲田まひるの存在感が特にすごい。
プロットとしては、第1部の遺産相続をめぐるゴタゴタ、
第2部で判明する仕掛け、
そして第3部の狂気じみた大人の『スタンド・バイ・ミー』的展開など、
やや詰め込んだ感は否めないものの見ごたえのある大人の青春劇だ。
随所に草彅剛・SMAP・新しい地図ネタが仕込まれており、ファンサービスをしてくる真面目さも本作の魅力だろう。
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『アナと雪の女王2』
満を持して登場した続編。
個人的には、筋書と楽曲ともに前作よりも気に入っている。
特に主題歌Into the UnknownはLet It Go以上に迫力と美しさを持った曲だし、
中盤のクリストフが歌うLost in the Woodsも気に入った(ミュージックビデオ的になりすぎて本筋から浮いていたのはもったいなかったかなと思う)。
あと、まさか『ボヘミアン・ラプソディ』ネタを持ってくるとは思いもしなかった。
現実を超えたクオリティの映像で提示される本作のテーマは、
1作目で解放された世界・人物をどう持続させるか、そのために必要な調和をどう成し遂げるか、ということ。
前作の成功に甘えず、より深いテーマにチャレンジしていて見ごたえがあった(そのため、話が形而上学的過ぎて難しく感じられることも確かだが)。
今の自分を知るために祖先の罪とルーツに向き合うこともテーマだが、そのために話が後ろ向きになってしまい、提示される回答もあっさりしすぎていることは課題点として残る。