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『マンダロリアン』がすごい話

激動の2020年も残り1か月。

 

コロナウイルスの感染拡大と混乱、Black LIves Matter運動、著名人の訃報…。

衝撃的なニュースが続いた1年であり、その影響は筆者の周りにも感じ取れた。

 

その辺の話はまた改めて記せばと思うが、この1年が異常な1年だったことは間違いない。

それは映画業界を始めカルチャー全体にも言えることで、

相次ぐ映画の公開延期と中止、そして映画館そのものが閉鎖されるという

以前なら考えられない出来事が世界中で起こっている。

 

ここまで書くとネガティヴなことだらけのように思えてしまう。

(実際そうだけど…)

だが、一つ、また一つとカルチャー関連で良いニュースも生まれているはずだ、

 

その一つが現在Disney+にて配信されているドラマ『マンダロリアン』である。

「また、スターウォーズの話かよ…」となってしまうかもしれないが、

これが想像以上の出来だった。

 

昨年公開の映画『スカイウォーカーの夜明け』を観てから

スターウォーズはもういいかなと思っていたが、

またもはまってしまうことに(とは言いつつ以前ほどの熱量はないものの)。

スターウォーズやめた!」と思って始まった2020年は「スターウォーズ最高!」という一言で終わることになりそうだ。

 

では『マンダロリアン』になぜそこまで惹きつけられるのか。

『スカイウォーカーの夜明け』になく『マンダロリアン』にあるものは一体何なのか。

 

今年に入ってシーズン2を見ているうちに気付いたのが、

「世界観の説得力」である。

 

もともとスターウォーズシリーズは情報量が異常に多い作品である。

画面に映っている主人公たちの奥でも多くの人物(モブキャラクター)が

行き交い、それぞれに名前が付けられ、なぜその場に居合わせたかが設定されている。

(その設定の細かさをテーマと売りにした短編集From A Certain Point of VIewが面白い)

あるいは、その場に置かれている小道具にも設定が加えられている。

(マンダロリアン関連のネタで言うと、”star wars ice cream maker”で画像検索すると異様な光景を観れるので一度は試してほしい)

 

今回の『マンダロリアン』は、明快で面白い話と愛着の湧くキャラクターを描きつつ、

シリーズの特徴である「世界観の厚み」を毎回提示しており、

その場で確かに人々(?)が生きている、と言うことが分かるようになっている。

 

例えば、シーズン1の第2話、

オープニングで主人公らが荒野を歩いている場面。

主人公が歩いた跡を、トカゲ状の小さな生き物が沢山ついてくる。

主人公が立ち止まり、向きを変えると逃げていくわけだが、

この一連の場面だけで、舞台となっている荒野が過酷な環境であり、

そこに住む生物たちは餌となる通行者を常に狙っているということが読み取れる。

主人公が常に危険と隣り合わせであり、狙われているということが端的に表されている。

 

わざとらしい説明を省いて画面から状況を読み取らせる

語り口が本作の大きな特徴だろう。

それは映像作品としての奥行きを与えるものであるし、

多くを語らない本作の主人公の姿とも親和性が高い。

なによりも、ずっと見ていても飽きない世界観が作られている。

そして、「あぁ、今スターウォーズを見ているんだなぁ」という気分になる。

 

一応、随所にファン向けの細かいネタが散りばめられており、

それを見つけるのも楽しい。

だが、本作は小ネタを披露することが目的の作品ではない。

(だからファン向けのネタに気付く必要はないし、気づかなくても話の

理解にまったく影響はない。

ただ、ドラマを見た後に映画を見ると色々と気づくことがあり大変面白い)

 

これは、読み取ろうとしても読み取りようがなく、

ファンに媚びを売ろうとした結果微妙な出来になってしまった昨年の映画との大きな違いといえる。

 

創作の中で方向性を決め、

それに沿うように場面を作ることの大切さを学べる作品であり、

映画史・ドラマ史的にも勉強になる作品だと思う。

本作と同時に配信されているドキュメンタリーも大変参考になる。

プロの監督、スタッフ、役者の熱意が伝わってくる内容であり、

興味を持たれた方はぜひ見てほしい(しかも1話30分という見やすい時間設定)。

 

と、思ったことを久々に書いてみた。

この記事を書いている現在はシーズン2の中盤に差し掛かったあたり。

映画と切り離された個人的な話として始まった『マンダロリアン』は、

ついに映画シリーズ、アニメシリーズと合流し始める。

 

小さな規模の物語が徐々に大きな出来事に巻き込まれていくというのも、

映画『新たなる希望』『ファントム・メナス』『フォースの覚醒』と通底する物語構造だ。

 

詳細は書かないものの、

リーク情報によると豪華なゲストキャラクターも出てくるようだ。

『マンダロリアン』の人物たちが『スター・ウォーズ』古参の人物たちに対し

どのようなリアクションを見せるのか。

今後が楽しみなドラマシリーズである。